プロポーザルについて2023 - 作文術とか
はじめに
Kaigi on Railsの運営メンバーであるunasukeがプロポーザルに関するいい記事を書いてくれていました。
https://blog.unasuke.com/2023/kaigionrails-proposal-writing-guide/
この記事の最後に
通過するproposalを書くための作文術(どのように書くか)ではなく
とあるので、この記事ではそれを受けてプロポーザルがより通りやすくなるようなコツについて書いてみようかなと思います。
前提:プロポーザルを出すということについて
しかし、プロポーザルを通す前にはまずプロポーザルを提出しなくてはなりません。これをハードルに感じる人もいるかと思います。そこで、プロポーザルを出すハードルを下げるようなことをいくつか書こうと思います。
プロポーザルを書くことで自分の知識や知見が整理される
個人的に重要視していることとして、プロポーザルという形式はアウトプットをする最も良い方法の一つだと思っています。書いたプロポーザルは公開されない場合も多いので、あまり読み手のことを気にせずに書くことができます(もちろん読み手がいる以上は考えるのですが、例えばよく知らない人からのマサカリとかは来ないわけです)。また、プロポーザルは字数に制限があることも多く、結果として自分が話したいことを「端的に」表現することになります。
これらの結果として、プロポーザルは自分が言いたいことに関するノイズがそぎ落とされた表現となります。プロポーザルを書く過程で「なるほど、自分が考えていたのはこういうことだったのか」となることもよくあります。ここで得られたものはプロポーザルの当落に関わらず今後の糧となります。
ですので、「落ちたらどうしよう」と考えすぎるよりはとりあえず出してみるとよいでしょう。実際、落ちても何も起こりませんし(私も数え切れないプロポーザルをrejectされています)。
カンファレンスで話すと注目される
これは人によってはメリットにならないかもしれませんが、カンファレンスの登壇者は一般参加者に比べて注目されやすくなります。これは特にフリーランスのように自身の知名度を商売道具にするケースでは非常に強力です。
また、副次的な効果として「懇親会でのコミュニケーションが楽になる」というのがあります。登壇者は質問をされることも多く、自分から話しかけに行く必要があまりありません。自分のトークというネタがあるため会話にも困りません。結果として知り合いが増えることで今後のカンファレンスに行った際の助けにもなります。
ちなみにこのこと自体はイベントの規模にかかわらず発生するので、最初は地域Rubyコミュニティなどで発表してみるのもオススメです。
プロポーザルに何を書くか
プロポーザルを書くに当たって考慮すべきことは三つあります。内容と構成とテクニックです。このうち、構成については冒頭のunasukeの記事で書かれているため、ここからは内容面とテクニックについて書きます。
実際に手を動かしたことを書く
「自分が実際に行ったことについて書く」のは重要です。「その人にしか話せない」ようなプロポーザルであれば通る確率はかなり高くなります。そして、自分にしか話せないことを書こうとすると多くの場合自分が実際に行ったことについて書くことになります。
手を動かした内容が日々の業務の中であっても全く問題ありません。各社が業務内で行ったことは公開されにくく、しかし実際に共有されると多くの人の役に立つという性質を持っています。Kaigi on Railsは特に「明日からの仕事に役立て」るということがコンセプトの一つになっているため、業務に直結した内容は比較的通りやすい傾向があります。
ここでの「手を動かす」はコードに関することでも良いですし、それ以外のこと(例えばマネジメント的なこと)でも構いません。また、OSSに関することでも良いですが、自作OSSの自慢的な話は(少なくともRubyKaigiと比べると)通りにくいです。これは単に方針の違いであり、自作OSSの自慢が良いとか悪いとかいうことではありません。
カンファレンスの傾向を把握する
今まさに説明した「方針の違い」というのは非常に重要です。方針に反するプロポーザルは原則として通りません。これらの方針は明記されている場合とそうでない場合があります。Kaigi on RailsではCFPページがありそこに具体例が挙げられています。もし不安がある場合は過去のトークを見てみるとよいでしょう。
Kaigi on Railsの場合、CFPページに「Rubyに特化した話題については、優先度が下がるかもしれません」と明記されています。こういった方針に関しては事前に把握してプロポーザルを出すことが求められています。
プロポーザルを通すテクニック
ここでは私が考える、プロポーザルを通すためのテクニックについて書きます。
アピールするポイントを明確にする
プロポーザルには必ずアピールとなるポイントがあります。例えばそれは新規性であったり網羅性であったりします。それを絞ることで採択する側がどこに注目すべきが明確になります。例えば非常に重要なトピックについては網羅性に重点を置いたプロポーザルは評価が高くなるかもしれません。あるいは新しいテーマや切り口であれば「これまでどこでも議論されていない」ことを強調してもよいかもしれません。
明確なアピールポイントが存在するプロポーザルは採択する側の目に留まりやすくなります。プロポーザルはかなりの数に目を通すため、目立つことは予想以上のアドバンテージとなります。
聴衆を明確化する
もう一つ明確にすべきポイントは聴衆です。例えば入門的なトークをする場合、すでにそのトピックについて詳しい人は得るものが少なくなりがちです。そこで事前にプロポーザルに「詳しくない人がターゲットです」と書いてしまいます。この方法のメリットはいわゆる「枠」に収まりやすくなるという点です。多くのカンファレンスはバランス良くトークを配置しようとする傾向があり、それはある程度意識的に「初心者枠」のようなものを考えながら採択をするということにつながります。ターゲットが明記されていることで枠に入りやすくなります。
これは実際に資料を作る過程でも有効です。聴衆が明確にされていることが入れるべき内容と落とすべき内容がハッキリとしてきます。
分量を書く
冒頭のunasukeの記事にもありましたが、分量はないよりあったほうが絶対に有利です。採択する側も人間なので、がんばってたくさん書いてくれたものは通したくなりますし、逆に手抜きに見えるものは通したくなくなります。それを抜きにしても、実際に登壇する際のイメージが湧くと安心して採択できるので、そういう意味でもたくさん書くのはオススメです。
さいごに:まずは出してみること
残念なことに、提出された全てのプロポーザルに対して主催側がフィードバックをすることは各種の制約により不可能です。ですが、個別にフィードバックを求められた場合は応じるケースもあります(Kaigi on Railsでは可能な限り応えたいと思っています)。もしいいプロポーザルを書けたはずなのに落ちてしまったなら、主催者にコンタクトを取ってみてもよいかもしれません。プロポーザルの提出に使われているアプリケーションによってはその中でやりとりをすることも可能ですが、他の手段もあります。
プロポーザルは出してみないとコツがつかめないと思います。私もキャリアの初期に出したプロポーザルはあまり良いものではなかったはずです。しかし、プロポーザルを出すことを続けるうちに内容や書き方が洗練されていきます。
そもそもプロポーザルは落ちるほうが普通の世界です。倍率はイベントにもよりますが、直近のRails Worldでは6倍になったそうです。通る確率は約15%ということになりますが、ここまで極端でなくても3倍程度の倍率は珍しくありません。プロポーザルの当落にはある種の運も絡んできます。
ですので、「落ちたらどうしよう」と考えるのはあまり有意義とは言えません。むしろ落ちて当然と思いつつ、しかし最善を尽くして書くのがよいでしょう。
皆さんの渾身のプロポーザルをお待ちしています!